Category Archive : COMICS

水島新司作品の思い出

先ほど、ネットニュースで「水島新司さん死去」との一報に触れました。
子供の頃から読み続けてきた数々の思い入れのあるマンガを生み出した作者の死を、不思議なほど冷静に受け止められているのは、先生がそれなりに高齢だったという事と、最近の作品をあまり読んでいない事があるのかも知れません。

初めて買った水島新司(以下敬称略で失礼します)の単行本は「ほえろ若トラ」
これは、当時阪神に入団したばかりだった田淵幸一を主人公にした実録マンガ。
この作品の影響もあって、私は田淵の事が大好きでした。今でも好きです。
のちに「がんばれ!!タブチくん!! 」(いしいひさいち作)で有名になった丸っとしたタブチくんではなく、スラっとして実にかっこいい、これまでにいなかったタイプのキャッチャー、学生時代はモヤシとあだなされていたという、それが「ほえろ若トラ」に描かれた田淵幸一。

その後、水島新司作品は、発売されると全て買って、擦り切れるほど、ページがバラバラになるほど、何度も読み返してきました。

次に買ったのは「エースの条件」
これは花登筺原作の野球マンガ。
水島新司と花登筺は、実に相性がよく、後に描かれた2人のタッグ作品「銭っ子」も、大好きな作品でした。

さらに「ドカベン」「野球狂の詩」など大ヒット作を連発し、野球マンガの巨匠として、ほぼ野球マンガだけを描くようになるのだけど、この頃はまだ色々な分野の作品を描いていて、変わった所では「輪球王トラ」(サイクルサッカー)「アルプスくん」(プロレス)など、この辺の作品も大好き。

そしてなんと言っても「男どアホウ甲子園」これが水島新司=野球マンガという印象を決定的にしていく作品だったと思います。
主人公の藤村甲子園、相棒のキャッチャー豆タンをはじめ、丹波左文字、東海の竜、美少女、ほか、魅力的なキャラクターが数多く登場し、後の「ドカベン」「野球狂の詩」に繋がるスターシステムが確立していったのは、この作品からだと思います。大好きな作品で、ひとりひとりのキャラクターに対する思い入れも深いのです。

少年時代に私が初めて買った、少し大きな単行本(大人向けコミック)が「あぶさん」。
実は私は「あぶさん」を100巻までしか買っていません。ラスト数冊を読んでいないのです。
途中から、ほのぼのだんらんマンガ的傾向が強くなり、正直それほど読みたいという気持ちがなくなってしまったので。

それはさておき、その後も、水島新司は「球道くん」「一球さん」他野球マンガを連発、それぞれに魅力的なキャラクターが活躍します。
この頃、私の頭の中では「色々なマンガに登場したキャラクターが一堂に会した野球マンガを読みたい!」という夢が芽生えるようになりました。

当時高校生だった私は、そんな夢を、一枚の絵にしようと試みます。
それが描きかけの、この絵


時空を超えた水島新司高校野球オールスター的な絵を描こうと思ったのです。
40年以上行方不明だった(というか忘れていた)この絵が、なぜかつい最近、たまたま発掘されたのです。(不思議)
なぜ描きかけのままだったのかといえば、もっと色々なキャラクターを描き入れたかった、そのためには、紙(B4ケント紙)が小さすぎ。人選がおかしすぎ。脇役というよりも端役程度の南海権左が主役的なポジションにどっかりと描かれているとか。賀間剛介がいるのだったら、土佐丸の犬飼兄弟も描けよ!とか。野球狂の詩から誰もいない(主にプロ野球だからだけど)とか。そんな事考えていたら、なんとなく描き続ける気持ちが小さくなってしまった、という思い出。

驚く事に、そんな私の夢が、その数年後に実現したのです。
それが「大甲子園」
作品の枠を越え、連載誌の枠を越え、出版社の枠を越え、一堂に会したスター選手達。
これこそ水島新司野球ユニヴァース(MYU、今作った造語だけど)の大傑作、マンガ界のアベンジャーズ。
本当に夢のような素晴らしい作品でした。
超主役クラス勢ぞろい、超癖の強い脇役勢ぞろい、そんなオールスターキャストが、全員生き生きと持ち味を発揮して感動的な場面を紡ぎ出していきます。
そんな本当に夢のような作品。(しつこい)(そして語彙力)

MYU的作品は、その後も「ドカベン プロ野球編」「ドカベン スーパースターズ編」「ドカベン ドリームトーナメント編」と続いていくのですが、私は「大甲子園」ほどの高揚感を得られず「スーパースターズ編」途中で読むのをやめてしまいました。

こんな事を徒然と書いていたらやっぱり悲しい気持ちもこみ上げてきたな。

なんにしろ、ある時期までほとんど全てを読んできた水島新司作品。
途中で読むのをやめてしまった「あぶさん」や「ドカベン スーパースターズ編」他、この先の人生で、まだ読んでいない水島新司作品を読む楽しみが残されている事を、今となっては感謝したいような気持ちです。

そして「男どアホウ甲子園」や「ドカベン」など大好きな作品を、数10年ぶりに、また読み直してみたい、そんな気持ちになっています。

『Giant Steps』を聴く日

石塚真一『BLUE GIANT EXPLORER』4巻を読んだ。
これは「世界一のジャズプレーヤー」を目指す男のお話。

3巻を読んだ時のブログからコピペ(3を4に)修正しただけの書き出しですが。

石塚真一『BLUE GIANT EXPLORER』4巻

今回は、LAでのお話、楽しませていただきました。
コミックの内容は、ともかく、これ(「BLUE GIANT」のシリーズ)を読むと無性にJAZZが聴きたくなります。
読んでいる間は、コミックの中から溢れ出す様に、頭の中に流れてくる音を邪魔されたくないので、何も聴かないのですが、読み終わると、何か聴きたくなってしまうのです。

はじめのうちは、マイルスとかモンクとか、私の持っている数少ないJAZZレコードの中から、適当に選んで聴いていたのですが、ここのところ、ジョン・コルトレーンの『GIANT STEPS』を聴くのが定番となっています。

John Coltrane / Giant Steps

やっぱり主人公の大が、サックス吹きなので、マイルス(トランペット)やモンク(ピアノ)じゃないよね、って事で、自然とこうなってきました。「GIANT」つながりでもあるし。

するとこれが、実によくはまるというか、気持ち良く聴けるというか。
う~ん「気持ち良く聴ける」っていうのはちょっと違うんだけど、しっかり心に入ってくるのが気持ち良いのかな。

正直、JAZZはそんなに聴いてこなかったし、全然詳しくないのだけれど、このレコードを聴く時って、何かある種の覚悟みたいなものが必要なのです。

今回の第4巻では、大が、LAのJAZZバーで聴いたバンド演奏に「こんなにも聴き心地が良く、耳に何も障ってこないジャズって…」となるシーンがあるのですが、そう、結局、そこ、なんですよね。

私が本当に聴きたい音楽って、単純に言ってしまえば、「魂」なのかな、と思うのです。
それは決して聴き心地が良いだけの音楽ではなく、耳に、心に障る音でもあるのです。
「心」とか「愛」とか、言い換えてもよいのですが、そういった「何か」
今も、改めて『GIANT STEPS』を聴きながら書いているのですが、胸騒ぎみたいなものを感じています。

音楽に限らず、文学でも芸術作品でもそれは同じ。
スポーツ観戦でも、同じ。
やっぱり「魂」に、心揺さぶられる瞬間、心に残る試合、そういうものを求めているのです。

もちろん、ただ心地よく聞き流すような音楽も、たまには良いと思います。
耳に障る、覚悟のいる音楽ばかりでは、こちらも疲れてしまうので。

ただ、やっぱり心が本気で求めている音楽は、聴く側にもある種の覚悟が必要な音楽なのかも知れません。
Peter Hammillとか頭脳警察とか、真剣に聴くとドッと疲れますからね。大好きだけど。

話が少し離れましたが、まあ、そんな風にマンガを読んで、音楽を聴いて、思いを巡らせて、幸せな充実した時間を過ごしました、というお話。

【追記】

本の帯に「アニメーション映画化決定!!」と書かれています。
(情報としては既に知っていたけど)

3巻を読んだ時のブログタイトルが「静止画が描く音」でした。
マンガのコマを見て、心の中に音が鳴るというような事を書いたのですが、アニメとなると、絵は動くし、実際に音も鳴るわけで、さて、どうなるのでしょうか…
期待と不安と半々ではありますが、なんにしろ楽しみです。

静止画(漫画のコマ)が描く心

最近まで放送されていたTVアニメ『さよなら私のクラマー』
これは、高校女子サッカーを描いた話で、原作マンガ(新川直司著)が大好きだった事もあり、毎週楽しみに見ていました。

しかし、正直なところ、アニメの表現が、マンガの表現に及ばなかったという思いがあります。
サッカーの動き、躍動感が、うまく表現できていないように感じると同時に、動画であるがゆえに、心の中に浮かぶ物が制限されてしまうように感じたのです。

それを強く感じたのがTVアニメの第11話「隣を走る人」での事。

このエピソードは、マンガでは第4巻に収められたエピソードで、この作品の中で、私が最も好きな場面があります。

ひとりでドリブル突破をはかっていた恩田希が倒されると、走ってきていた周防すみれが倒れた恩田を跳び越すようにして、こぼれたボールをつなぐ、そのシーン。
マンガでは、完全な無音(文字なし)かつ、効果線や背景なども一切なし、白地に、倒れた恩田(顔をあげてボールを目で追う)と飛び越す周防だけが描かれている、そのシーン。

もう、この一コマだけで、何度泣いた事か、読み返すたびに泣いているような有様。

突出しているがゆえに中学時代には、それぞれの場所で孤独を味わってきた、恩田と周防。
その心までもが、この一コマにギュっと描かれているように感じるのです。

そんな重要な場面が、アニメだと、普通に流れてしまって(しかも動きがぎこちない)、なんともほんわりとした残念な気持ちになったのでした。

静止画(漫画のコマ)が描く音

※コミック『BLUE GIANT EXPLORER』3巻(最新巻)のネタバレ、というか内容表現が含まれています。

石塚真一『BLUE GIANT EXPLORER』3巻を読んだ。
これは「世界一のジャズプレーヤー」を目指す男のお話。

このシリーズを読んでいると、ふいに、ぶわっと涙が溢れ出してしまう事がよくあります。

この巻でも、やはりそんな瞬間がありました。

アレックスのドラムソロがドドドドド、ダダダダダとしばらくつづき、大がサックスを構える。
ページをめくると、見開き2ページぶち抜きで、上のコマにサックスを吹く大、下のコマにドラムを叩くアレックスが大きく描かれている。
音を表すような擬音表現文字など、一切無し。
この見開きを見た瞬間に心の中にドラムとサックスが鳴り響き、涙が溢れ出しました。

ここにいたるまでの演奏シーンには大体、音(を表現する文字)が入っているのですが、「ここ!」というシーンには無音(というか文字が無い)になる、と同時に、心の中で音が鳴り響くという、この感覚。
毎回やられてしまいます。
圧倒的な音の表現に何度泣かされたか。

どうして泣いてしまうのかよくわからないのだけど・・・・・・
もちろんここに至るまでの物語、大とアレックスの心の動きもありますが、そこに描かれた絵だけで、心の中に音が鳴り響く感覚がとにかくすごい。

次のページを見ると、アレックスがドラムを叩きながら泣いているではありませんか。
「やっぱり泣くよね・・・」

一度、全て読み終わってから、また、例の見開きページへ戻って、しばし、心の中の音に浸りました。